不動産売却において少しでも高く売却することを目指す売主は多いですが、実際には適正価格で売買が成立することがほとんどです。
ただし折角大切な不動産を手放すのであれば、相場よりも高い金額で売却できないかチャレンジすることも大事だといえます。
また、物件の価格を決めるベースになるのは不動産会社から提示される査定額となっており、売り出し価格と査定価格、相場との違いを正しく理解しておくことも重要です。
上記以外にも固定資産税評価額という指標もあり、売主が売却価格を設定するためにチェックするポイントは非常に多いです。
この記事では不動産価格の正しい決め方として、売出価格と査定価格、相場価格などの特徴について解説します。
価格設定のステップや注意点、コツも紹介しますので、これから不動産を売却する予定のある人は参考にしてください。
売り出し価格と査定価格の違い
知っておきたい不動産売却価格の種類と用語
売却価格を決めるための3つのステップ
売り出し価格を設定する際のポイント
値下げや価格調整が必要なケース
まず押さえておきたい!売り出し価格と査定価格の違い
土地や戸建て、マンションなど不動産には種別がありますが、どの不動産をいくらで売却する場合であっても不動産査定を依頼し、査定額と売却プランをベースに検討する必要があります。
不動産売却は売主が価格や売却条件を設定できることから価格を高めに設定しても問題はありませんが、現実的に売却できるラインを把握したうえで売り出し価格を決めておくことで納得のいく価格で不動産売買を成立させることができます。
この章では不動産会社が提示する査定価格と売り出し価格の関係性と、希望価格と実際に成約となる価格のギャップについて解説します。
査定価格と売り出し価格の関係
不動産査定は一般的に取引事例法という方法を使いますが、この方法は対象物件の周辺で成約になった類似物件を抽出し、中央値を査定額として算出します。
戸建てやマンションの場合はリフォームの有無、土地の場合は解体更地渡しや現況渡しなどを考慮して価格を調整し、適正な査定額として不動産会社は売主に提示します。
つまり、査定価格は相場価格とほとんど同じということが分かります。
一方、売り出し価格は査定価格をベースに売主が設定する売却価格のことで、住宅ローンの残債や売却の諸費用を考慮して価格設定するケースが多いです。
このように売主の事情によっては相場よりも高い価格で販売をスタートするケースもあります。
成約価格とのギャップはなぜ生まれる?
不動産購入において売り出し金額は売主が自分で設定するものの、成約となる価格と大きく乖離する事例は多いです。
この理由として買主の希望と売買価格にあるギャップが考えられ、買主と売主の希望が折り合う価格帯で成約となるケースがほとんどだからです。
買い手は適正な価格で買いたいと考える以上、相場から著しく乖離した価格で売却することは難しいといえます。
また、売主が支払う住宅ローン残債や諸費用は不動産の資産価値とは無関係のため、買い手からすると相場以上の物件は割高に感じてしまい候補から外れやすくなってしまいます。
このような理由で売主と買主で要望の乖離は発生しやすく、販売価格と成約価格のギャップが起きやすくなる原因となってます。
不動産売却価格の種類と用語
不動産会社と面談して査定額や売却プランの提示を受ける際、売り出し価格以外の価格について検証することになります。
日常生活で聞きなれない用語も多いことから、正しく理解したうえで面談を受けることがポイントです。
この章では不動産売却価格の種類と用語について、解説します。
相場価格・実勢価格とは
相場価格とは最も売れやすい価格のことで、適正価格とも呼ばれます。
不動産会社が提示する査定額は相場価格に近いことが多く、売り出し価格を決めるうえでベースとなる指標といえます。
ただし不動産が再開発計画内や区画整理事業内にある場合は将来的な資産価値上昇を見込むことができますので、相場よりも高い価格で査定額を提示するケースもあります。
実勢価格は実際に成約となった価格のことで、価格交渉を受けたケースや売主がリフォームして売却したケースなどが含まれており、エリアと築年数が同じ物件でも実勢価格が大きく乖離することも少なくありません。
そのため、実勢価格は最終的な着地価格をイメージするためにチェックする程度に留めることが多いです。
実勢価格とは?|実勢価格とは?調べ方や公示地価との違いを解説(三菱地所リアルエステートサービス)
最低売却価格と希望売却価格
最低売却価格とはこれ以上価格を下げないというラインのことで、売主と不動産会社だけで決めており、外部に情報が公開されない指標です。
たとえば不動産の住宅ローン残債が2,000万円で売却にかかる諸費用と税金が合計200万円かかる場合、2,200万円を最低売却価格に設定するのが一般的です。
このように売主が自己資金を使って売却しなければならない事態を避けるために、最低売却価格を見据えながら販売活動することが大切です。
一方、希望売却価格は売主が売りたい金額のことで、相場や実勢価格から大きく乖離していることもあります。
いわゆる「チャレンジ価格」となっており、物件公開直後の価格は希望売却価格で設定することが多いです。
不動産売却の基本的な販売戦略は、一度希望売却価格で公開して反響数を確認し、数カ月後に適正価格へ変更するか検証するという方法になります。
そのため不動産会社と面談する前に最低売却価格と希望売却価格を決めておき、面談を通じて擦り合わせすることをおすすめします。
チャレンジ価格を設定するときの注意点
チャレンジ価格は売主の手残り額を増やすことができる一方で、相場よりも高いことから反響数が減ってしまいます。
そのためチャレンジ価格のまま公開し続けることにはリスクも大きくなってしまい、どこかで見切りをつけることが大切です。
そこで、不動産会社とチャレンジ価格で公開する期間をあらかじめ設定しておき、それまでに買い手が見つからなければ計画通りに価格を下げることがポイントです。
これ以外にも、手残り額が増えすぎると譲渡所得税も増えてしまい、思ったほど手元に残らないという問題点も知っておく必要があります。
売却価格を決めるための3つのステップ
買い手は売却価格と不動産の資産価値を見比べて購入を検討するため、売却価格の設定は不動産売買において重要なポイントといえます。
しかし不動産売却に慣れていない売主にとってはいくらで物件公開して良いのか分からないこともあり、見当違いの金額で公開して失敗してしまうケースも少なくありません。
そのため不動産売却を成功させるためには、まず売却価格を決める方法について正しく理解しておく必要があります。
この章では売却価格を決めるための3ステップを紹介しますので、1ステップづつ確認してください。
ステップ1:類似物件と市場相場の確認
まずは売却予定の物件に類似している物件を調査し、どのくらいの価格帯で物件が公開されているかチェックします。
買い手の多くは複数の不動産を比較検討し、割高の物件は候補から外します。
そのため類似物件は競合物件となりますので、どのくらいの数が競合するのかを把握することも重要です。
このことからも、公開されている類似物件が多い場合はある程度価格を合わせなければ早期売却は難しいといえ、少なければ多少相場よりも高く公開しても反響を得られる可能性はあるといえます。
なお、類似物件のチェックはアットホームやSUUMOといった不動産ポータルサイトの閲覧がおすすめです。
ステップ2:住宅ローン残債や経費の把握
類似物件の価格帯がチェックできれば、次に売却最低価格を決めます。
売却最低価格のベースとなる考え方は「赤字にならないライン」であり、住宅ローン残債や売却の諸経費の合計額を参考にするのが一般的です。
売却する際の確認ポイントと確認方法は、次の通りです。
確認ポイント | 確認方法 |
---|---|
住宅ローン残債 | 融資を受けている金融機関に連絡 |
印紙税 | 国税庁のHPにある速算表で確認 |
仲介手数料 |
以下の計算式であらかじめ計算しておく:
|
確定測量費 | 土地家屋調査士に確認 |
登記費用 | 司法書士に確認 |
解体費用 | 解体業者に確認 |
農地転用費用 | 行政書士に確認 |
ステップ3:不動産会社の査定を比較検討
類似価格と最低売却価格が分かれば適正な売り出し価格を算出することができますが、さらに不動産会社の査定額を参考にすることでより精度の高い価格設定が可能となります。
ただし不動産会社の査定額は会社によって変動するケースが多く、注意が必要です。
この理由として不動産会社が採用している取引事例法はピックアップする成約物件によって査定額が変動するという点があり、必ずしも同じ価格ラインに査定額がまとまるわけではありません。
極端に高い成功事例を意図的にピックアップして査定額を高くし、あたかも「弊社なら高値で売却できますよ」とアピールする不動産会社もいますので、不動産査定は必ず複数の会社に依頼し極端な査定額を提示した会社を除外することをおすすめします。
これ以外にも売却プランや会社独自のサービス、営業担当との相性も不動産会社を決めるうえで重要なチェックポイントです。
売り出し価格を設定する際のポイント
入念な調査と検討によって売り出し価格を設定しても、買い手がすぐに見つからないこともあります。
また、買い手が見つかっても価格交渉を受けてしまい、納得のいかない価格で売買契約を締結することになったという失敗事例もあります。
このように、不動産売買は売主がイメージした通りに進まないことも多いことから、市場に合わせて販売戦略を変更したり買い手の要求に対応できるよう事前準備しておくことが大切です。
この章では売却後の計画変更に対応できる売り出し価格に設置するためのポイントについて、解説します。
交渉を見越した価格設定
売主が少しでも高く売りたいと考えるように、買主は少しでも安く買いたいと考えています。
そのため買主はたとえ資金計画上は販売価格で購入しても問題ないのにも関わらず価格交渉することもあり、売主としては手残り額が減っても受け入れるべきか判断に迷うことも多いです。
そこで売り出し価格はまずチャレンジ価格でスタートし、その後適正価格に変更した場合でも想定される価格交渉額を吸収できるよう少し高めに公開するのがポイントです。
こうすることでどのタイミングで買い手から価格交渉を受けても、想定内の手残り額で成約することができます。
売却期間のスケジュール設計
不動産売却は買い手が見つかり売買契約を締結し所有権移転登記をすることで一旦終了となりますが、買い手が見つからなければ売主が売却を中止しない限り販売を継続することになります。
不動産ポータルサイトには反響がほとんどなく、何年間も売れ残っている物件が多く公開されており、このような状態になってしまうと極端に価格を下げるなど販売方法を変更せざるを得なくなってしまいます。
このような失敗を避けるためにも不動産の売却スケジュール設定は重要なポイントといえ、次のような計画を立てたうえで売却活動をスタートさせることをおすすめします。
4月1日
チャレンジ価格でレインズ登録、不動産ポータルサイトに公開
4月1日〜6月30日
反響数の週平均が10件を超えていた場合、チャレンジ価格のまま継続。9件未満であれば6月30日時点での類似物件価格に合わせる。
7月1日〜9月30日
反響数の週平均が15件を超えていた場合、チャレンジ価格のまま継続。14件未満であれば類似物件価格からマイナス100万円で価格設定。
10月1日〜12月31日
この期間で成約できなければ買取を検討。
固定資産税評価額と実際の売却価格
売却価格を決める要素には類似物件価格や査定額などがありますが、売主が毎年支払っている固定資産税の評価額も考慮して検討する必要があります。
固定資産税は固定資産税評価額に対して税率を掛け合わせて計算されており、評価額は不動産鑑定士によってエリアの流動性や前面道路の路線価をベースに算出されます。
つまり、固定資産税評価額は不動産の専門家が算出した資産価値、ということが分かります。
この章では固定資産税評価額と実際に売却される価格とのバランスについて、解説します。
固定資産税評価額の基本と調べ方
固定資産税評価額は固定資産税だけでなく、相続税や贈与税の計算根拠としても使われる指標です。
全国地価マップなどで調べることができ、路線価や土地の形状を鑑みて計算されることになりますが、実際に売却される金額よりも低く設定される傾向にあります。
そのため固定資産税評価額だけをベースに売却価格を設定してしまうと極端に安くなってしまい、エリアや不動産の状態によって多少の違いはあるものの、固定資産税評価額の1.5倍から1.6倍が実勢価格になることを知っておく必要があります。
このような特徴を踏まえたうえで、固定資産税評価額を参考にすることが重要です。
【参考サイト:全国地価マップ】
適正価格を導き出すためのポイント
固定資産税評価額は実勢価格と大きく乖離しているものの、不動産の流動性やエリアの価値を正確に判断できることから無視できない指標です。
特に固定資産税評価額が数年で極端に増加しているエリアは今後地価が上昇する可能性が高いといえ、売却価格を相場以上に設定すべきか検討する必要があります。
一方、公開されている物件や成約価格は売主の希望や妥協が含まれていることから、不動産の価値と正しく連動していないことも多いです。
このことからも、適正価格を導き出すためには不動産ポータルサイトの情報だけでなく、国が公表している公的な指標もベースにすることも大切だといえます。
値下げや価格調整が必要なケース
チャレンジ価格のまま売却できれば売主にとって最高の不動産売買となりますが、実際には適正価格で売却されることが多く価格調整を余儀なくされるケースも多いです。
特に土地形状が良くなかったり前面道路が狭いなど不利なポイントが多い不動産は相場よりも低くしなければ契約がまとまらないこともあり、注意が必要です。
しかし、早期売却したいからといってむやみに価格を下げてしまうと大きな損失に繋がりやすくなるため、価格調整は慎重に行うことが重要です。
この章では値下げや価格調整など、売却価格を変更するおすすめのタイミングについて解説します。
3カ月売れない場合の見直しのタイミング
一括不動産査定サイトのすまいステップが公開しているデータによると、売り出しから売却完了までにかかった期間の割合は次のようになったそうです。
3カ月以内:31.48%
6カ月以内:24.07%
1年以内:29.63%
1年半以内:3.7%
2年以内:3.7%
上記の結果によると3カ月以内で売却されるケースがもっとも多いことから、3カ月で売れなかった場合は価格を見直すタイミングだといえます。
3カ月目に不動産会社と媒介契約を更新して次の3カ月で成約となる割合は約92%となっていますので、3カ月目の価格見直しが非常に重要だということが分かります。
【参考サイト:家の売却期間は約6ヶ月!家の売却期間を長引かせないコツを徹底解説!】
仲介と買取の違いを理解する
どうしても買い手が見つからない場合は、仲介ではなく買取を検討することもおすすめです。
仲介は不動産ポータルサイトや紙媒体を使って一般人から買い手を探すことになりますが、競合物件や市況の影響を受けて早期売却できないことも多いです。
その点、買取は不動産会社が直接買主となって売買契約を締結しますので販売期間がほとんどないというメリットがありますので、仲介で一定期間販売しても売れない場合は買取を検討することを最初から計画に組み込むケースもあります。
また、買取業者によっては確定測量や建物解体、残置物撤去といった費用もかからず、仲介手数料も不要です。
不動産買取にはこのようなメリットがありますので、売却しにくい不動産を処分したい人に向いています。
ただし買取価格は相場価格よりも安くなりますので、手残り額がマイナスにならないかチェックしておくことがポイントです。
まとめ
不動産売却において売主は価格や販売条件を自由に設定できることから、なるべく高く価格設定したいと考える売主も多いです。
しかし実際に売却できるかどうかは買い手との合意が必要となり、高すぎる物件は反響が少なくなったり大幅な価格交渉を受けることになります。
また、最低売却価格が決まっていなければそもそも価格交渉を受けて良いのか判断できず、その結果売却の機会を逃してしまうこともあり得ます。
そのため不動産の売り出し価格を決める際にはまず住宅ローン残債や諸費用を支払ってもマイナスにならない最低売却価格を設定し、そのうえで類似物件価格や固定資産税評価額、不動産会社の査定額をベースに売り出し価格を設定することが大切です。
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